怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


なんとかその政策にストップをかけられないかと考え、ちょっとした脅しをかけようという安易な気持ちだったらしい。

ただ交通事故については、相手に怪我をさせるつもりはなかったと話した。

レセプションで会った着物姿の日本女性が忘れられず、街中で彼女に似たアジア系の女性を見つけ、車で近寄ろうとした際に誤ってぶつかってしまっただけで故意ではない。

怖くなって逃げた、申し訳なかったと罪を認めた。

マッテオの供述を聞き、拓海はお騒がせで自分勝手な彼を腹立たしく思うと同時に、沙綾を帰国させておいて本当によかったと胸を撫で下ろした。

父親の電力会社はまったく絡んでおらず、彼ひとりの犯行だったため大事にはされずに事件はひっそりと処理され、ようやく大使館に平穏が戻った頃には沙綾を帰国させて二ヶ月以上経っていた。

彼女の誕生日はとうに過ぎ、一緒に出しに行くはずだった婚姻届は、右半分がいまだ空欄のまま拓海のポケットで眠っている。

ようやく安心して連絡が出来ると真っ先に沙綾に電話をしたが、なぜか『この番号は現在使われておりません』というアナウンスが流れてきた。

何度掛けても同じで、怪訝に思いながらマンションのコンシェルジュサービスに連絡し、沙綾に電話をするように伝言を頼んだが、一向に連絡がない。

痺れを切らし、大学生の弟にマンションまで沙綾の様子を見に行ってもらおうと考えたのが、年の瀬も押し迫った十二月下旬。

仁に頼もうかとも思ったが、彼は年明け早々ウィーンの大使館に異動が決まり忙しくしている。私用で頼るには申し訳なく、冬休みで時間のありそうな弟の大地に協力を求めた。