怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


(今考えれば、とんだ思い上がりだ……)

契約はドイツにいる間の三年間。レセプションで妻のふりをしてほしいと頼んでの結婚だった。

帰国して妻として振る舞う必要がないのなら、沙綾を縛るものはない。

契約結婚を迫った揚げ句、何の説明もなく急に帰国させた男を、いつまでも想ってくれる女性がどこにいるというのだ。

沙綾の想いに胡座をかき、いつまでも自分を好きでいてもらえると驕っていた自分自身に腹が立つ。

彼女が他の男と交際をしていると知ったのは、沙綾が帰国して三ヶ月経った頃だ。

すぐに捕まるだろうと思っていた脅迫まがいな嫌がらせの犯人探しは予想以上に難航し、なかなか沙綾に連絡できないでいた。

送られてきた手紙やパンクさせられた車からは犯人に繋がる証拠は見つからず、環境政策に携わる外交官の周囲に見張りを付けたり、防犯カメラなどで対策を打ち、再犯を防ぐのみ。

最終的に解決の糸口を掴むきっかけになったのは、黒澤大使の娘を巻き込んだ交通事故。

比較的人通りの多いカフェが密集した場所での事故だったことから、同じ場所に来ている人に連日聞き込みをして目撃者を探すと、そのうちのひとりが逃げ去る車の様子を動画で撮影しており、解析の結果、その車の持ち主がマッテオだと発覚した。

すぐに連邦警察が事情聴取に向かい、最初は否認していたマッテオだが、車から何かにぶつかったような跡が見つかり、翌日には観念して自供を始めた。

電力会社の社長である父親の代理で出席したレセプションで、与党の有力議員と日本の外交官が環境政策について話しているのを聞き、このままでは自分の炭鉱発電所が閉鎖の危機にさらされるのではないかと不安になった。