同期として長い付き合いで、拓海をよく知っている仁は、彼が女性のために必死になるところを見たことがなかった。
だからこそ婚活パーティーで会った女性と結婚すると聞いたときは驚いたし、その一連のやり取りも知っている。
いつしか拓海が沙綾に本気で惚れていたのも、仁は見抜いていた。
「嫌がらせや脅迫文に加えて、大使の娘さんが事故に遭ったんだ。タイミング的に無関係とは思えない。彼女は帰国させる」
『帰国させてしまえば、お前が直接守ることは出来ないんだぞ。それに、彼女はお前の妻として顔を知られている可能性があるんだろう?』
「幸い入籍前で名字も違う。こっちではレセプションで顔を知られている可能性があるが、妻として紹介したのは限られた相手にだけだ。日本へ帰してしばらく連絡を断てば赤の他人だ。こっちにいる間だけの関係だと思ってくれるだろう」
『幸いって……彼女の誕生日を記念日にするって、指輪も用意してたんだろう?』
そのとおりだが、そうでも言わないと決意が鈍ってしまいそうだった。目を伏せると、自室のチェストに入れてある婚姻届と指輪が脳裏をかすめる。
拓海は迷いを振り切るように小さく息を吐き出すと、強い決意を持って顔を上げた。
「二ヶ月以内には解決して、必ず呼び戻す」
『随分短期決戦だな。目星はついてるのか』
「まあな。だが証拠がない」
レセプションに出席していたBEL電力の社長の息子、マッテオについて、調べを進めていた。
現在、彼は電力会社の本社でなく、その下にある石炭発電所の所長を勤めており、普段は物静かで神経質な性格だが、酒を飲むと人格が変わったように大柄な振る舞いをするのは所内では有名な話らしい。社長の父親も、息子の酒癖の悪さには頭を抱えていると聞く。



