これまで交際してきた女性から愛を告げられても、なにも響かなかった。
見た目や職業だけに向けられている言葉だと理解しているからこそ、彼女達に対し失望もしなければ信頼や愛もない。
その場しのぎの言葉を嫌う拓海は、これまで誰にもその言葉を使ったことがない。
だが沙綾だけは違う。
“君が好きだ”と、“愛している”と伝えたい気持ちが溢れて止められなかった。
そのまま激情に流されるように沙綾を抱き潰し、我に返って頭を掻きむしる。
(今はまだ伝えられない。この気持ちを言葉にしてしまえば、もう一時も離せない。彼女を日本に帰せなくなる……)
自分勝手だとわかってはいたが、この事件が解決し、沙綾をドイツに呼び戻す日がきた時に、自分にとって特別なはじめての言葉を贈ろうと心に決めた。
疲れ果てて眠る沙綾の髪を撫で、そっと額にキスを落とす。
起こさぬようリビングに移動すると、仁に電話を掛けた。
「俺だ。頼んでいた件、どうなった?」
『あぁ。ちょうど今、マンションの電子契約書をお前のパソコン宛に送った』
「そうか。助かる」
『……本当にいいのか?』
電話の向こうから仁の気遣わしげな声が聞こえた。



