「私も、拓海さんについてきてよかった」
「沙綾」
「急な契約結婚の話には驚きましたけど、今となっては本当によかったって思ってます」
口を挟まず、ひたすら聞き役に徹した後、ゆっくりと噛みしめるように頷く彼女を見て、拓海の胸は切なく疼いた。
こんなにも健気で愛しい沙綾を、なにも説明も出来ずにひとり日本に帰すなんてしたくない。
しかし、彼女を危険な目に合わせるわけにいかない。誰よりも、なによりも守りたい存在だった。
「本当に? 後悔したことはないのか」
「え?」
「外交官は国の政策にも深く関わるため徹底した守秘義務があり、国益のために働けば敵を作る事態にもなる。それでも君は……」
初めて感じる胸の痛みに顔をしかめる拓海を、沙綾は真っすぐに見つめていた。
「私は拓海さんの提案に頷いたのを、後悔したことはありません」
そして、彼女は気持ちを言葉にして伝えてくれた。
「あなたが好きです」
高すぎず、落ち着いた涼やかな声。
“好き”という言葉に込められた気持ちが、スッと染み込むようにシンプルに胸に届いた。



