同僚から見せられた手紙に眉を顰めた。これは、まるで脅迫だ。
嫌がらせに屈して政策を変える気はさらさらないが、皆で周囲には気を配ろうと話していた矢先、黒澤大使の愛娘が交通事故に遭ったと連絡が入った。
「娘さんの安否は?」
「怪我は大したことないそうだが、ぶつかった車はそのまま逃げていったらしい」
「おい、それって……」
大使館に緊迫した雰囲気が漂う。
もしも事故を起こした人物が、この一連の嫌がらせの犯人と同一だとしたら。
その場にいた全員の脳裏をよぎった仮定に、拓海に戦慄が走った。
(家族まで狙われる? 冗談じゃない。沙綾……!)
脅迫文とも取れる手紙の文面から、犯人は拓海達が推し進めている政策の反対派、おそらく石炭や石油を扱う企業ないし組織の人間ではないかと推察された。
ドイツではすでに環境税という石油や電力に対する課税があり、さらに環境対策で脱炭素の動きが活発化すれば、炭鉱や石炭発電で働く多くの労働者が職を失うかもしれないと危ぶんでいるのだろう。
当然拓海たちもそこを考えて政策に不備が出ないよう尽力している最中だが、強硬手段に出られては対話のしようがない。
すぐに連邦警察に連絡を入れ捜査が開始されたが、大使館を狙った嫌がらせは国際問題に発展しかねないとの懸念から、厳重な箝口令が敷かれた。



