拓海以外は聞いていないのに彼氏や後輩の女性を悪く言わず、ただ現状を悲しんでいる沙綾に焦れったさを感じ、救ってやりたいと強く思った自分に驚いた。

アポも取らずに職場に出向き、聞いていた以上に劣悪な環境に舌打ちをしながら、彼女が着替えに席を外している間に、元彼で上司だという男に言い放った。

『沙綾を泣けないほど傷つけたのは誰だ。目の前で涙を零されないと悲しんでいないと思うなんて浅はか過ぎる。まぁ、だから嘘泣きにはあっさり騙されるんだろうが』
『お……お前になにがわかる! あっさり営業成績を抜いて、目の前で話す英語も俺より上手くて、男を立てられないような女なんて……』
『僻みか。見苦しい。二度と彼女に顔を見せるな』

その後、あの旅行代理店には監査が入り、やはり営業停止処分が出た。

労働環境の悪さだけでなく、貸切バスを利用した国内旅行において下限を下回る運賃でサービスを手配していたのが発覚し、道路運送法に抵触していたらしい。

さらに社長の脱税疑惑も持ち上がったり、パワハラの内部告発があったりと、今や悪い意味でマスコミに注目されている。業務再開は厳しいだろう。

退職後、肩を震わせて泣いていた彼女は、これを聞いて色々と吹っ切れるだろうか。それとも、優しい彼女は胸を痛めるだろうか。

いつの間にか彼女のことばかり考えていた。

母親が身勝手に浮気をして出ていった過去もあり、女性に対してはドライであると自覚している。

恋愛にのめり込んだ経験もなければ、心から女性を信頼したこともない。