「いや。重みも熱さも苦ではない。それもまた幸せだ」
まさに幸せそうな顔で湊人の顔を覗きながら言う彼に、沙綾は息を呑む。
まるで大切な我が子に対するような想いを口にする拓海を見て、沙綾から無意識に言葉が溢れた。
「……どうしてですか?」
ピタリとその場に足を止めた沙綾を訝しみ、拓海が顔を覗き込んでくる。
沙綾の目にはうっすらと涙の膜が張り、高ぶった感情が抑えきれなくなっていた。
「どうして湊人に、そこまでよくしてくれるんですか?」
今日だけでなく、何度も感じていた。
マンションに湊人用のキッズスペースを作っていてくれたことにはじまり、車にはチャイルドシートも取り付けてあった。
朝の忙しい時間にも湊人との会話を大事にしてくれたし、小さな成長を見逃さずにいてくれる。
こうして誕生日を祝い、決して軽くない二歳児をずっと抱っこして幸せだと言ってくれる理由を、沙綾は見つけられなかった。
「自分の子供ではないと思ってるのに……どうして」
拓海は言葉を詰まらせた彼女のそばに立ち、湊人を片手で抱き直してから、そっと大きな手を沙綾の頬に添える。
温かい手の感触に、俯いていた顔を上げた。



