「二歳か。少しずつ色んな物事を理解していく歳だな」
拓海の発言に、感傷に浸っていた沙綾はギクッと身体を強張らせる。
深く考えずに湊人の誕生日を教えたけれど、計算すれば拓海の子だとバレてしまうのではと、今更ながらに気が付いた。
バクバクと心臓の音が身体中に響き、夏の暑さのせいではない汗が滲む。
しかし拓海はそれ以上なにか言ってくる様子はなく、沙綾はこっそり胸を撫で下ろした。
賑やかにはしゃぐ湊人の声が消えると互いに言葉が続かず、遊園地を楽しむ客の遠い声と、小さな寝息だけがふたりの間にたゆたう。
ぐっすりと眠った湊人を抱っこしてくれる拓海の隣を歩きながら、何度も繰り返した疑問が再び脳裏に浮かんできた。
(拓海さんは一体なにを考えているの? どうして私を探してまで契約の続きを迫ったの? 湊人を他の男性との子供だと思っているのに……)
こうして一緒に湊人の誕生日を祝えたことは素直に嬉しい。
夕妃にはもうすぐ終わる関係だと強がったけれど、一週間後に控えた別れの時が来なければいいのにと、今日は何度も思った。
だけど、彼が求めているのは信頼関係で結ばれた妻。沙綾が心の底で欲しているものとは違う。
「重くないですか? 寝ちゃうと熱いですし」
沈黙に耐えきれず、沙綾は拓海に何気ない話を振ったつもりだった。



