『今その人と一緒にいるってことは、沙綾はまだ彼が好きなんでしょう?』
夕妃の声が頭の中で響く。
拓海と再会して以来、ずっと心の奥底に押し込めていた気持ちが、ふとした瞬間に弾けて零れてしまいそうになるのを、沙綾は必死で堪えていた。
それなのに、拓海はそんな沙綾の努力を無駄にするかのごとく、次々とこちらの困るようなセリフを投げつけてくる。
(あの時、私の心を取り戻すって言ってた。どういう意味? 私からの好意は不要だったんでしょう……?)
もう恋はしない。
そう決めた覚悟が揺らいでいるのを自覚しながら、それでも素直に気持ちを伝える勇気をもてないでいた。
閉園間際まで時間を忘れて遊び尽くした湊人は電池が切れたように眠ってしまい、彼の腕の中には、誕生日プレゼントに拓海に買ってもらったぬいぐるみが大事そうに抱かれている。
「湊人くんは最近急激に言葉が増えた気がするな」
「そうなんです。二歳前後で二語文を話すようになるとは聞いていましたけど。成長スピードが早くて私もビックリしてます」
これまではほとんど単語でしか話せず、周囲の大人の会話を聞いて語彙を溜める時期だったのが、ここ一ヶ月で溢れ出るように喋りはじめた。
成長が嬉しい反面、赤ちゃんっぽさがどんどん抜けていくのが少し寂しくもある。



