怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


「ちゅぎ! あれのりたい!」
「あっ、湊人待って。ひとりで行っちゃだめだよ」

あっという間に食べ終えた湊人が指した先には、ファミリーゾーンと呼ばれるゲームなどが置いてあるアーケードが見える。

ワンコインで動くパンダカーを見つけた湊人と一緒に腰を上げた沙綾を制して、拓海が席を立って振り返った。

「大丈夫、俺が行く。せっかく可愛い格好なんだから、今日は走らずゆっくりして」

はしゃいで飛び回る湊人を追う拓海の背中を見ながら、頭の中は今の彼の発言で一杯だった。

湊人は自分で歩けるようになった一歳を過ぎた頃からベビーカーや抱っこ紐を嫌がるようになったため、沙綾は動きやすさ重視のシンプルなパンツスタイルが多く、いつも同じ様な格好になりがちだ。

しかし今日は珍しく湊人以上に自分の支度に手間取った。

いつもと変わらないコーディネートでいいはずなのに、なにを着ていこうか迷い、クローゼットから服を出しては戻すという時間を久しぶりに体験した。

朝の貴重な時間を費やした結果、普段は湊人に汚されてしまうため敬遠している白のノースリーブのブラウスに、夏らしい鮮やかなグリーンのキャミワンピースを重ね、足元は黒のスポーツサンダルを合わせている。

髪の毛もいつもはひとつで纏めるスタイルが多いが、今日は肩につく髪のサイドを編み上げ、緩いハーフアップにしていた。

特別甘くデート仕様という格好ではないが、スカートを履いて出掛けること自体少なくなったため、いつもよりも少しだけおしゃれに気を遣った格好でむず痒い。

それに気付いているのか、さりげなく褒められ、沙綾は嬉しくて頬が緩んだ。