怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


素直に満面の笑みで『ありがとう』を言う湊人が可愛くて、沙綾はぎゅっと彼を抱きしめる。

「いい子だな」
「手前味噌ですけど、本当に素直ないい子に育ってくれてます」

『ひとり親だから』と将来色々と言われないように、言葉を理解し始めた一歳半くらいからは、かなり神経質なくらい躾について悩みながら育ててきた。

静かにしないといけないところ、走ってはダメな場所、食事の仕方など、まだすべてはわからなくても厳しく言い聞かせ、叱りすぎてしまった自分を反省して、ひとり寝顔を見ながら泣いた夜も一度や二度ではない。

それでも『まーま』と愛らしい顔で笑いかけ、離れまいとくっついてくる湊人が、沙綾を母親として強くしてくれた。

「愛情をしっかり受け取っている証拠だ」
「そう、だといいんですけど」
「そうに決まってる。湊人くん、ママは好きか?」
「うんっ! だいしゅきー!」
「そうだよな、俺もだ。一緒だな」

お子様ランチのカレーを頬張り、ベトベトの口で笑いながら「たくみといっしょ!」と嬉しそうに見上げてくる湊人に、沙綾はうまく返せずに曖昧に笑うしかできなかった。

(一緒って……。だから、そういうのが自惚れそうになる原因なのに……)

同居をし始めてから、こんなふうに勘違いさせるかのような言動が多い。

どちらかと言えば寡黙で甘さを見せる人ではなかったはずなのにと、沙綾は戸惑いと羞恥から無言で食事を進めた。