怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


彼女の助言通り、拓海が帰ってきたら、一緒に湊人の誕生日をしないか聞いてみよう。一緒に家でケーキを食べるだけでもいいし、断られたらそれはそれで仕方がない。

そう決意してふと振り返ると、すぐ後ろに拓海が立っていた。

「きゃっ!」

心臓が止まりそうなほど驚いた。久しぶりの電話に夢中で、玄関が開く音が聞こえなかった。

「お、おかえりなさい、ビックリしました。すみません、帰ってきたのに気付かなくて」
「誰と話していた」
「え?」

帰宅早々不機嫌そうな表情の拓海に首をかしげる。

先週大きな仕事を終え、そろそろ休みが取れそうだと言っていたが、やはり疲れが溜まっているんだろうか。

「すみません、うるさかったですか? 自室だと湊人が寝ているので、こっちで話してたんですけど」
「そうじゃなくて……沙綾、君はまだ……」

珍しく歯切れが悪く、いつもは黒く輝く瞳にも影が差している。

沙綾は根気強く拓海の次の言葉を待ったが、彼は話を変えてしまった。

「いや。それより、少し纏まった休みが取れそうだ」
「よかったです。ずっと忙しくてお疲れでしょうし、ゆっくり休んでくださいね」

なにを言いかけたのか気になったものの、しっかりと休養をとってほしいのも本心なので、それ以上追求はしなかった。