怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


拓海からの強引な契約続行の提案は、拒もうと思えば拒めた。

それなのに受け入れたのは、まだ沙綾が彼を忘れられず、どこかで自分を妻として求められて嬉しいと感じたからだ。

だけどそれを認めてしまえば、拓海への感情が溢れ出してきそうで怖かった。

沙綾が今いちばんに考えなくてはならないのは、湊人の幸せだ。

恋愛に一喜一憂している余裕はない。もう自分に恋は必要ない。

矛盾しているのはわかっているが、そう言い聞かせなくては強い母親でいられる自信が持てなかった。

「ごめんね、夕妃。でも私……」
『いや、ごめん。今のは私がデリカシーなかった』
「ううん、違うの。ありがとう、夕妃が私と湊人のこと考えて言ってくれてるってわかってるの。いつも本当に感謝してる」
『当たり前でしょ。親友なんだから』
「夕妃がいてくれて、本当によかった」

何度感謝してもし足りないほど、夕妃には頭が上がらない。

『だけど、今回の湊人の誕生日はやっぱり遠慮しておくよ。もしも沙綾に一緒に祝いたいって気持ちがあるのなら、それとなく話してみてもいいと思う』
「……うん、そうしてみる。ありがとう、夕妃。近いうちに、そっちに会いに行くから」
『私に会いにっていうか、ミソノを観に来るんでしょ。観たい舞台あったらメッセージ送っておいて。チケット確保しておくから』
「わーい! 夕妃愛してるっ」
『はいはい。その代わり、また湊人の動画送ってね! 一日の終りに見て癒やされてるんだから』
「ふふっ、了解」

互いに笑い合って、もう一度お礼を言ってから電話を切った。