怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました

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七月四日は湊人の二回目の誕生日。

当初は関西に引っ越した夕妃と三人でバースデーパーティーをする予定だったが、電話で現状を伝えると、それなら家族で過ごすほうがいいと、彼女はこっちに来るのをキャンセルしてしまった。

「待ってよ。家族で過ごすって言っても、あと十日で終わる関係なんだよ?」
『どうして終わりにするの? プロポーズされてるんだし、湊人の父親なんでしょ?』
「そうだけど、彼は自分の息子って知らないし、湊人がいるからこそ、愛のない家庭なんて築きたくない」

沙綾が強い口調で言うと、夕妃は不思議そうに呟いた。

『愛、ないのかなぁ? いくら契約期間が残ってるからって、三年も前に捨てた女を探す? それに、他の男との子供がいるって思ってるのに結婚を考えるなんて、よっぽど愛がないとできないと思うんだけど』

“結婚”というワードに期待が首をもたげそうになるが、沙綾はいやいやとかぶりを振った。

「愛があるなら、急にひとりで帰国させて『連絡してくるな』なんて言わないでしょ。手切れ金まで用意して」
『なにか理由があるのかもよ? その手切れ金だって、あのマンションを沙綾がそう思ってるだけでしょ?』
「だって、それ以外にあの無駄に豪華なマンションを用意された理由がないもん。だから、これ以上彼に深入りしたくない。きちんと終わりにしないと」
『……そう言うわりに今その人と一緒にいるってことは、沙綾はまだ彼が好きなんでしょう?』

夕妃の指摘に、グッと喉の奥が絞られ、息が詰まった。

『本当に嫌なら同居だって拒否できるでしょ、契約っていっても口約束なんだから。それをしなかったのは』
「やめて」

言われなくてもわかっている。