怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました


突出した容姿はもちろん、流暢な英語と、議論を組み立てる卓越した構成力と説得力で自身の主張を述べる様子は誰の目にも輝かしく映り、カリスマ的人気を誇っていた。

女性からの人気も凄まじかったが、あまり浮いた話を聞いたことがない。

グループが違った上に、一年間しか在学期間が被っていなかったので、そこまで交流はないが、何度かグループ合同の飲み会で一緒になる機会はあったし、そうでなくても有名だったので存在自体は知っている。

(これは、後輩として挨拶するべき? でも、拓海先輩は私のことなんて覚えていないだろうし……)

英語サークル故に、互いを名字ではなく名前で呼び合うのが主流なだけで、特に親しかったわけではない。

彼が大学を卒業して五年。覚えていないというよりも、当時沙綾を認識していたかどうかすら怪しい。

目の前の男性にどう接しようかと悩んでいると、驚くことに向こうからアクションを起こされた。

「君、大学同じだよな。ESSのドラマ班にいた?」
「あ、はい、そうです」

こくこくと首を縦に振り肯定するも、まさか拓海が自分を覚えていたとは思わず動揺する。

結婚相手を探しにくるような場で大学時代の先輩に出会うだなんて、とても気まずい。

そう思う沙綾とは裏腹に、拓海はプロフィールカードを熱心に読み込んでいる。

「吉川沙綾、二十五歳。特技はドイツ語か。どのくらい話せるのか聞いても?」
「え? はい。子供の頃何年か住んでいたので、日常会話に困らない程度には今も話せます」

父親の仕事の関係で、小学四年生から中学卒業までをドイツの中西部に位置するデュッセルドルフで過ごした。