「言っておくけれど、先に手を出してきたのは彼の方だ。正当防衛ってやつだよ」

 そんな言い訳じみた台詞が聞こえた気がしたけれど構ってなんていられなかった。
 彼の傍らに手をついて何度もその名を呼ぶ。

「ラウル! ラウル!!」

 私のせいだ。
 彼は何も関係ないのに、私のせいでラウルを巻き込んでしまった……!

「落ち着いて」
「……っ!」

 先生が、私の向かいに膝を着いてラウルの首筋に手を当てた。

「大丈夫。まだ息はあります」

 それを聞いて少し安堵するも、先生は苦渋に満ちた表情で続けた。

「しかし早く処置をしなければ」
「その通り。ほら、姫。早く力を使わないと手遅れになってしまうよ?」

 場違いな楽しそうな声。

(力を、使う……?)

 ――そうだ。聖女の奇跡の力。
 それを使えば……『使えれば』、ラウルは助かる……?

(でも、使えなかったら……?)

 このまま、ラウルは――。
 そう思ったらガクガクと手が震えて、呼吸も上手く出来なくて。

 そのときだった。

「姫様」

 強い力で両肩を掴まれた。
 見上げれば、涙で霞む視界に優しく微笑むクラウスがいた。

「大丈夫。姫様ならきっと出来ます」
「クラ――」
「彼のことは、貴女に任せましたよ」

 そうして、ユリウス先生は立ち上がった。