聖女の奇跡の力。
 その名の通り、普通では起こり得ないはずの『奇跡』を起こす力だ。

 セラスティアよりももっと前の聖女は、王国が他国から侵略を受けた際に負傷した大勢の兵士たちを奇跡の力で助けたという。
 比較的平和な時代を生きたセラスティア自身もいくつもの奇跡を起こした。
 水不足にあえぐ地域に雨を降らせ、助からないと言われていた子供の病を治した。

 聖女はただ己の血を一滴、証である胸の薔薇に塗りこみ祈れば良かった。
 それだけで『奇跡』は起きた。



「どこへ行くのです?」
「!?」

 寮を出たところで声をかけられ私は息を呑んだ。

「ユリウス先生……」

「こんな明け方から、どこに行くのですか? ミス・クローチェ」

 その低音と鋭い視線に一瞬気圧される。でも。

「話をしに行くんです」
「どなたと」
「……」

 私が口ごもると、先生はふぅと息を吐いた。

「先ほど怪しい人影を見かけまして、念のため出て来て正解でした。ミス・クローチェ、自分が今どれだけ危険なことをしようとしているか、わかっているのですか?」

 ユリウス先生が怒っている。いや、呆れている……?
 当然だ。自分でも無謀だとわかっている。――でも。

「私が彼とちゃんと話をしないと、きっとこの件はいつまで経っても解決しません」