急ぎ振り返って目に映ったのは、ローブを羽織った長身の男性だった。
 フードを目深に被っているせいで顔がよくわからないけれど、男性だとわかったのはその声と体格からだ。
 見えている口元が不気味に笑う。

「久しぶりだね」

 私は後退りながら訊く。

「だ、誰!?」

 久しぶり、ということは以前会ったことがあるということだ。
 するとその人はくすりとまた笑った。

「酷いなぁ、自分の婚約者を忘れてしまうなんて」
「!?」

 ――婚約者?

 そのとき、私を押しのけるようにして前に出てくれたのはラウルだった。

「レティシアの婚約者はこの俺だが? なんなんだお前は」

 柄悪く問うラウル。

(というか、ラウルとは許婚ってだけで婚約はしてないけど)

 こんなときでなければそう訂正したかったけれど、アンナが私の腕を強く握ってきて、その小刻みに震える手に私は自分の手を重ねた。――アンナもこの人の異様な雰囲気に怯えているのだ。

 しかしそれを聞いてその人は嬉しそうに声を上げた。

「レティシア! そう、今はそういう名なんだね」
「はぁ?」