――あの後急いで支度をして寮をこっそりと出てきた私たち。
 その途中、知らない女の子(多分、下級生)と楽しそうにお喋りしているラウルを見つけ、アンナが無理やり引っ張って連れてきたのだ。
 いつもならこの時間学園の門は閉まっているはずだけれど、先生が出て行った後だからか、それとも休日の前夜だからか簡単に開いて助かった。

 そしてユリウス先生はというと、今は週末で賑わう大通りから一本入った静かな路地をひとり歩いていて、私たちはそれを尾行していた。
 これでバレたら流石に怒られるのは確実なので、距離は大分開けている。

(先生、どこに向かっているんだろう)

 先生は大人だから、最初はバーとかお酒の飲めるお店に向かっているのかと思ったけれど、この路地にそんなお店はありそうにない。
 街灯も少ないし、とにかく薄暗くてなかなかに不気味な雰囲気だ。
 
「そういや、確かこの辺りだったような……」
「え?」

 ラウルの呟きが聞こえて振り返ると、彼は驚くほど硬い表情をしていた。

「例の誘拐のあった場所だよ。確かこの辺の通りだったはずだ」
「!?」

 アンナが息を呑むのがわかって、丁度そのときだった。

「 みいつけた 」

 そんな異質な声が間近に聞こえてゾワリと全身に怖気が走った。