「滅ぼした?」

 ラウルの呟きに、彼はまた笑う。

「そう。リュシアン様……いいえ、ルシアン様率いる帝国軍によって私は家族友人諸共皆殺しに遭いました。しかし貴方を恨んではいません。それもこれも全部、王国を守る存在であるはずの聖女が、私たち国民を裏切ったためですから」

 くく、と彼が肩を震わせる。

「貴方には寧ろ感謝しています、リュシアン様。前世の話を信じたというだけで、ここまで信用してくださって。お蔭でこうして易々と聖女に近づくことが出来ました。くく、いいですねぇ、その絶望した顔。貴方のその顔が見られてマルセルは大満足ですよ」

 そのとき、アンナの震える声が聞こえた。

「まさか、レティに花瓶を落としたのって」
「あぁ、私ですよ」

 あっけらかんと返されてアンナは言葉を失ったようだった。

「留学の手続きに学園を訪れた折、久しぶりにその御姿を目にしたらつい手が滑ってしまいまして。まぁ、軽い挨拶ですよ」
「てめぇ……っ」

 ラウルの低い唸り声。