「そうですか……」

 見当をつけていた子ではなかったこと、そして花瓶が落ちてきたことを聞いたユリウス先生は眉間にいつもよりたくさんの皴を寄せた。
 話をしてくれたのはほとんどアンナだったけれど。
 ちなみに私は今来客用のソファに座らせてもらっている。先ほど先生がここに優しく降ろしてくれたのだ。
 この部屋には何度も入っているけれど、いつも机を挟んで先生の正面に立ったまま話をしているものだからソファに座るのはそういえば初めてで、お姫様抱っこの余韻もあってなんだか落ち着かなかった。

「それで、今ラウルには他に心当たりのある子をリストアップするように言ってあります」
「……」
「先生?」

 机に軽く寄り掛かり、アンナが一枚だけ持ち歩いていた例の手紙を見つめ考え込むようにして口元に手を当てていた先生は、その呼びかけに我に返ったように視線を上げた。

「わかりました。あとはこちらに任せてください。ミス・クローチェ、貴女は一人にならないこと。放課後は極力部屋で大人しくしていてください」
「わ、わかりました」

 私は内心ほっとしながらしっかりと頷く。
 また家に帰るよう言われたらどうしようかと思った。

「では、部屋まで送っていきます」
「!」