「え?」
涙腺がおかしくなったようだ。
止めようとしても、止まらない。
健吾さんが黙ってハンカチを差し出してくれる。
「ごめ・・・なさ・・・、私、どうしたんだろ」
ふんわりとしたやさしいオムライスを食べて、美味しいなと思ったら、心のやわらかな部分が安心して緩んでしまったみたいだ。
先程海辺で泣き尽くせなかった涙がどんどん流れてきて、口からも言葉があふれてきた。
「私っ・・・・・・、5年付き合ってて、今日も本当はデートで、なのにフラれて・・・・・・、じ、自由になりたいって、言われて、よくわかんないし、私どうすればよかったのかわかんなくて・・・・・・」
嗚咽が漏れる。
借りたハンカチが涙で濡れていく。
二人は黙って次の言葉を待ってくれている。
そのあたたかな雰囲気に心が震えて、また涙になって流れた。
涙で色が変わったハンカチを折り返し折り返し使う葵に、今度は風太がくしゃくしゃになったハンカチを差し出してくれた。
「ぬれてるから・・・・・・・」
しわくちゃなハンカチを受け取りながら、自分に向けられた小さなやさしさにうれしくなる。
気遣わしげな風太の顔を見て、その茶髪が目に入り、ふいに瀬良くんの顔を思い出す。
髪の色以外、何も似ていないはずなのに、面影を探してしまう。