1階はほぼ店舗らしく、生活をする設備は2階にあった。
昭和を思わせるタイルのレトロなお風呂でさっと海水を流して、借りたスウェットに着替える。
手早くドライヤーをかけると髪にふわっと空気が入り、少しだけ気分が上向いた気がした。
洗面所のドアを開けると、仏頂面の風太が待っていた。
「着替え、大きいな」
「洋服、洗濯するよ。帰れないだろ」
そう早口で言って、洗濯機に海水まみれのスカートたちを放り込む。
下着まで海水の犠牲にならなかったのは不幸中の幸いだ。
「悪かったな、勘違いして」
「いいですよ。私も、助かりました」
「荷物はその部屋に置いてあるから」
そう言って、ドアの隙間から畳がのぞく部屋を指さした。
ドアを開けて自分の鞄を確認しようとすると、トントントンと階段を降りる音がした。
そして、もう一度上ってくる音がする。
「オレ、風太。風太って呼んで、アオイさん」
それだけ言うと、今度は本当に階段を降りていった。