そう言われて連れて行かれたのは、道を一本渡った所にある洋食屋だった。
「ハレルヤ」という看板に、準備中の札がかかっている。
カランとベルが鳴り、ドアが開かれるとケチャップのいい匂いがした。
「あぁ、風太。ちょうど昼ごはんができたぞ」
やわらかい落ち着いた男性の声が奥から響く。
どうやら私を引っ張ってきた男性は風太というらしい。
「健吾さん、こいつが自殺しようとしてたから止めてきた」
そう言って私の背中を押し、店の中へと追いやる。
「ちがっ、違いますっ」
「何が違うんだよ。冬の海にそんな格好で来ておいてよく言うよ」
確かに街デートのためのおしゃれなスカートは、海へ来る服装ではないだろう。
「フラれたんですっ」
「フラれたあてつけに死ぬつもりだったんだろ」
どう言っても通じないと思い、いつの間にか近くに来ていたエプロン姿の「健吾さん」の方を見やる。
おだやかな目をした彼は、私達のやりとりを興味深げに見ていた。
目が合うと、健吾はにっこりと笑顔になった。
「風太、これは本当に勘違いのようだな」
私は、くしゅん、と一つくしゃみをしてからその言葉に重ねるように言った。
「そうなんです。フラれて傷心ですけど!死ぬつもりなんてなくて、泣いてたら急に高波がきてかぶっちゃったんですっ。・・・・・・くしゅん」
「とにかく、風邪を引かないようにシャワーを浴びなさい。風太、着替えを、えーと・・・・・・」
「あおいです。小宮、葵」
「うん、あおいちゃんね。風太、案内しなさい」