真新しいパンプスで砂浜を歩く。
じゃりじゃりと砂が靴の中に入ってきたが、それすらも心地よい刺激に感じた。
北風に吹かれて、足にスカートがまとわりつく。
布に抵抗するように前へ前へと進む。
何度も砂に足を取られながら海へと近付いて行った。
(二人で、海には来たことなかったな・・・・・・)
デートをした場所、これから行きたいと思っていた場所を思い巡らせていると、急に泣けてきた。
一度涙腺が緩むと、それは堰を切ったように流れてきた。
涙で視界がぼやけていて、高波が迫りきていることに気が付かなかった。

ザアッ。

気がつくと頭から波をかぶり、水浸しになっていた。
(冷たっ)
その時、右腕をグッとつかまれた。
「ばかやろう!」
振り向くと、茶髪にトレーナー、ジーンズの見知らぬ男性だった。
同世代にも見えるし、自分より若いような気もした。
「冬の海で、死ぬつもりか!!」
(はぁ?)
「まだ若いんだろ、これから何でもできるだろう、簡単に死ぬな」
どうやら目の前の男性は私が自殺すると勘違いして、止めてくれているらしい。
一生懸命何やら言っているが、それよりも、海水でベタベタな服が風で冷えることが気になった。
「へっくしゅ」
私の状態に気づいたのか、男性は説教を止めた。
「とにかく、こっちへ来い」
男性はそう言うと、私の腕をつかんだまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと・・・」
離してくださいという私の抵抗はなされることなく、一喝された。
「うるせぇ、黙ってついて来い」