風太は給仕をしながら、お店が落ち着くとそばに来て、少しずつ自分のことやハレルヤのことを教えてくれた。
店は健吾さんの道楽でやっていること、そのため短時間しか開けていないこと。
健吾さんのオムライスの熱心なファンが存在すること。
風太自身は、聞いてびっくりしたのだが、私の勤め先からそう遠くない地域にある大学の一年生だった。
そして、土曜日だけハレルヤを手伝いに来ているということだった。
お客さんがポツポツと来ては、食事をして去っていく。
テーブルに置かれたメニューを眺めると、本日オムライス、限定10食と書かれていた。
ケチャップの匂いで満たされた店内で、静かな音楽を聞きながら過ごす。
誰もがオムライスを食べて幸せそうな顔をして帰っていく。
お客さんの様子や、風太の屈託のない笑顔、健吾さんの穏やかな表情を見ていると、自分の悲しみがどこかへ溶けていってしまう気がした。
「悪かったね」
チェックのエプロンで手を拭きながら健吾さんが近付いてくる。
洗い物をしているであろう風太が厨房から「ずりぃ」と叫ぶ。
「いえ・・・・・・」
(癒やされました)
そう言おうかと思ったけど、あまりにも言葉が陳腐な気がして言えなかった。
ただ、このお店の雰囲気が優しすぎて、割れたばかりの心に静かに何かが沁み入ってきて、ただ満たされた。
もちろん心の傷はまだ新しくて、痛いのだけれど。
やさしい絆創膏が、確かに心に貼られるのを感じた。