ふわりと髪が動き、男が振り返った。
いつものハーディスの顔では無く、美しいけれどももっと男性を感じさせるその顔を私はただ見つめていた。
「この身体は思ったより持ちが悪い」
ハーディスとは違う低いが強い声。
私は知っている、この人を。
「貴方は誰なの」
ようやく疑問を相手にぶつけられたが、知りたくないように声が震える。
男は悠々と太い腕を組み、木の幹に背を預ける。
服は執事服では無い。
胸板がほぼ出たような薄い布を上半身に駆けているだけのような服。
夢の中で見たあの服だ。
見知らぬようで見知った男は口角を上げた。
「この世界でもお前は変わらぬ強さを持つ。
早く死んでくれれば連れて行けるものを」
早く死んで欲しい?
唐突な言葉に固まる。
やはりこの世界でも私は生贄として死ぬ運命なのか。
「はは、違うぞ」
心の中を読んだように男が笑って大きな手を振る。
「この世界はお前のボーナスステージだ。
本来100回目の死で終わるはずだった。
そこでこちらに来るはずが」
「なーに苛めているんっすか」
軽い声が後ろから聞こえて振り向く。
そこにはあの男が苦笑いして近づいてきた。
だがそこで気付く。
中庭奥に居る衛兵は動いていない。
仕事で動かないようにしているのでは無い、あれは止まっているのではないだろうか?
「正解ですー。
ここは時間が止まっているっつーか、次元が違うんっすよね」
また心の中を読まれうろたえそうになるが、私は腕を組んだまま面倒そうにしているハーディスを見て、あれ、ハーディスは?
「ハーディス!ハーディスはどこ?!」
今更ながら慌てる私に、胸のはだけた男は豪快な笑い声を上げた。
「何だ、わかっているのかと思ったが。
この器は今眠っている。
器は我のようで我では無い。
器は器の感情を持っているというのは面倒だがこうするしか方法が無かった。
この器の願う、お前を長生きさせてこの世界を楽しませたいというのはあまり理解できない」
ハーディスが器?
次々と情報が開示されるが私は脳内の処理が追いつかない。



