だが抱き留めるより抱きしめられていて、ちょっと、と文句を言う私をハーディスは無視する。

私の顎に長い指が伸びてきて上を向かされ、そこには黒い目が獲物を捕らえるように私を見ていた。

「私ですよ」

「え、うん」

目の前にいるのはハーディスだって知っているけれど何のことだろうか。

「意味が通じていませんね。
三人目の候補者は私です。

ちなみにヘマタイトという苗字は母の苗字でして私の正しい名前は、
ハーディス・アウイナイト、と言うのですが」

のけぞった私を覆い被さるように私を抱きしめる妙な体勢のまま、突然なんか色々な情報がもたらされた。

ん?ハーディスが三人目の交際希望のお相手って事なの?!
この人、執事なのに?!

いや、こいつ、今名前を言わなかったかしら。
アウイナイト。
それはこのアウィン国の国王と同じ。
というか王族の名なんだけど?!

「ちょ、ちょっと、ハーディス、冗談が過ぎるわ」

「ご安心下さい、私は第四王子ではありますが早々に王位継承権は自ら破棄しています。
ですのでティアナ様と結婚しても王妃となる事はありませんので、結婚後もお嬢様の好きに生活できますよ」

「いやいやいや、なんで王子がうちの執事やってんの?!」

「お湯が冷めてしまいます。
ささ、いってらっしゃいませ」

そう言って笑顔のハーディスにバスルームへ私は押し出された。

バスルームで待っていたメイド達が、入ってきた私を見て不思議そうに私の名を呼ぶ。
そんなのは頭に入らず思わず叫んだ。

「情報量が多すぎて何が何だかわかんないんだけど?!」

101回目、初めて迎えた16歳の誕生日。
私は唐突に訳のわからない事態に陥っていた。