どうしてこうなったんだろう。
1週間前、私の好きな人はこの世からいなくなった。
突然の事故だった。塾の帰り道、轢かれそうになった子供を助けてそのまま。
彼のご両親に聞いた話。
救急車で運ばれ意識が朦朧としている中、彼は自分より子供のことを心配した。
子どもの無事を確認すると、
「...良かった」
そう一言、消えそうな声で呟いた。
それが彼の最後だったらしい。
私の彼は、旭優斗《あさひ ゆうと》は本当に優しい人だったみたい。
....最後まで。
「...全然良くないよ」
今日も私の虚しさだけが部屋に響く。
「原さん、先生これから会議だから行くわね。具合良くなったらそのまま戻って大丈夫だから」
「はーい...」
白で統一されたベッドやカーテン、鼻を掠める薬品の香り。
まさかこの17年間ずっと超健康体を維持してきた私が、毎日保健室に来ることになるなんて。
登校は一応しているものの、授業はぼーっとしちゃって集中できない。
そして何より、優斗がいない教室にいるのが辛い。
だからいつも途中で授業から出てきてしまう。
机にあった花も既に撤去されて、まるで最初からいなかったかのよう。
私だけがずっと、あの日から動けずにいるみたい。
コンコン
「夕夏ー、もう授業終わったよ。一緒にお昼食べよー」
こうしていつも杏珠に迎えに来てもらってるのも申し訳ないなぁ。
「いつもごめんね。でも今日はもう帰るわ、ダメそう」
「そっか...分かった。無理しないでね」
「ありがとう」
そう言うと微笑んで「じゃあ荷物持ってきてあげる」と駆けていく杏珠も、本当に優しい。
荷物を持ってきてくれた杏珠を見送り帰ろうとしたところで、ふと眠気。
「私め、ずっと寝てたくせに...」
だめだ抗えない...
ごめんなさい先生、もう少しだけベッド占領します....