料理場に野良猫を連れ込んで、料理人を困らせたこと?


それとも屋敷の中を走ってバケツにつまずいて、中の水を全部こぼして床を水浸しにしてしまったこと?


それとも……。


どうしよう。

思い当たる節がありすぎて、逆に分からないよ……!


お父様はどのことを言っているの?


なんのことを怒るつもりなの?

せめて分かっていれば、言い訳を考えることができるのに。


分かんないんじゃ、どうしようもない。


うずくまって頭を抱える。



「すずお嬢様、どうされました!?具合が悪いのですか!?」



貴船の焦った声が降ってくる。


わたしは顔を上げて、ぶんぶんと首を横に振った。



「わたし、怒られるの?この家追い出されるの?ちょっと待ってよ、まだ16だよ?そんなことってある!?心の準備が……!」



ううっ、と唸るわたしに、貴船が困ったように眉を下げた。



「今回のお話は、すずお嬢様の将来に大きく関わってくるお話だと思いますので……さぁ、貴船も参ります。すずお嬢様」

「しょ、将来……」



思っていたより大きな意味を持つそのワードに、目の前が真っ暗になる。


わたし、これでも。これでもね?


たまにお稽古が嫌で逃げることはあったけど。


それでも桜家の娘として、勉強もお稽古事もお嬢様の礼儀やマナーだって頑張ってきたんだよ?



それなのに、追い出されちゃうの?


そんなの嫌だよ、絶対に嫌!