「様……お嬢様」

「ん……」



だんだんと視界がクリアになって、ぼんやりしていた意識が浮上していく。


わたしの顔を覗き込んでいるのは、もちろん決まっている。



「九重……」



名を紡げば、安堵が混じった吐息が落ちてくる。



「ここは……?」

「リムジンの中です。お嬢様、無事で本当によかった……」



泣き出しそうなその顔がなんだかおかしくて笑いを洩らすと、不満げに唇を尖らせた九重は、ふいと視線を逸らした。



「ごめんね、九重。わたしが死んじゃったら、九重クビだもんね」




執事職を辞めさせられるどころか、たぶんすっごく重い罰を課せられるところだったんだもん。


そりゃ、泣きそうな顔にもなるよ。



ものすごく悪いことをしたと思ってる。


でも、あのまま放っておくなんてできなかったんだもん。



「猫ちゃんは……無事?」



おそるおそる九重を見上げると、「無事です」となんともそっけない返事が返ってきた。



「ねえ、なんでそんなにそっけないの……?悪かったって思ってるよ。クビの危険に晒しちゃって、ごめんね、九重」

「違います」



聞いたことがないくらい低い声に、思わずびくりと肩が震える。



「もしかして九重……怒ってる?」

「当たり前です」



ぴしゃりと間髪入れずに告げられる。


サファイアの如く輝く瞳が、まっすぐにわたしをとらえた。