「わあっ……綺麗!」

「お嬢様、あまり身を乗り出すと危ないですよ」

「フェンスがあるから大丈夫!」



底が見えるほど澄んだ水面に映った紅葉はより一層鮮やかさを増し、視界一面が紅に染まる。



「わたし、こんな綺麗な景色見たことない……!」



わたしの狭い行動範囲の中にはなかった絶景に、思わず感嘆の息が洩れる。


わたしの横で九重も水面を見つめながら、ふ、と息を吐いた。



「連れてきてくれてありがとう、九重」



そうつぶやけば、「いいえ」と小さなささやきが返ってくる。


学校のことも、お稽古のことも全て忘れて、今わたしの心の中にあるのは、目の前に広がる紅葉と────九重だけ。


冷たい風が頬を撫でて通り過ぎていく。


この時間がずっと続けばいいのに。


ふとそんなことを思ってしまって、慌てて視線をずらすと。



「あ……」



視線の先で、あるものを見つけた。


視線の先にあった……いや、"いた"のは、小さな2匹の子猫だった。


片方の子猫は雪のように真っ白で、もう片方の子猫は反対に真っ暗。


大きさからして、きょうだいなのかな。



池のそばで戯れているその2匹は、まるで近くに池があることなんて認識していないように、無邪気に遊んでいる。



「大丈夫、かな……」



なんだか嫌な予感が頭をよぎる。


それがなんなのか明確には言えないけど、胸がざわつくような感覚がする。


目を離せず見ていると、白い子猫の方が落ち葉で足を滑らせて体勢を崩した。


黒猫が焦ったように鳴いた時には、白猫は池に落下してしまっていた。