「だから、なんで九重はそうやって言い切れるの?わたしの将来の旦那様を知っているの?」
冗談混じりに問いかけたつもりだったけれど、九重は少し考える素振りをしたあと口角を上げた。
「もちろん、知っていますよ」
「え……!?だ、誰なの。その相手は」
「それは」
「それは……?」
おそるおそる訊ねるわたしに、九重はぐぐぐと詰め寄った。
将来の旦那様が誰なのかということ、綺麗すぎてむしろ目の毒ともいえる美貌が目の前にあることに、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
じわりと額に汗が浮かび、こめかみを汗が伝うのが分かった。
じっと九重の言葉を待つ。
そして、その綺麗な唇からその名前が紡がれる。
「それは、私です」
「またそうやって冗談を言う……。もうさすがに騙されないんだから」
「バレましたか。残念」
あーあ。期待したわたしが馬鹿だった。
執事が主の婚約者を知っているはずがないことなど、少し考えたら分かることだ。