「イタリアに、戻る……?」


目を瞬かせたわたしに、九重はこくりと頷いた。


「非常に不本意ですが、そういうことになってしまったのです」

「そんな……」


嫌だ。嫌だよ。

また、わたしから離れていっちゃうの?

ぶんぶんと首を横に振って、九重の手にしがみつく。


「行かないでよ、九重……。お願いだから」


言葉に出して、後悔した。

九重はきっとお仕事で行くことになるんだ。

それなのに、行かないで、なんて言ったら九重が困るだけなのは目に見えてる。


「ごめん、さっきのは冗談……」


どこかの専属執事の如く、そう訂正しようと思った時。

ふわりと優しく抱きしめられた。


「嬉しいです。お嬢様がそうやって素直に言ってくださるようになって」

「え……?」

「私はすぐ戻ります。ただ、学校に挨拶をしてくるだけです」


九重の言葉に首を傾げる。


「挨拶……?」

「ずっと日本にいるという報告をしたり、その他色々と手続きをしてくるだけなので、1ヶ月ほどでお嬢様のもとへ帰ってきます」