「そんなに怖がらないでください。
……嫌、ですか?」


こうして向かい合うと、どうしても小暮界人が頭に浮かぶ。


全くの別人なのに、二人が重なって見えてしまう。

それが、怖かった。


「────こわい」

「……ん?」

「やっぱり、怖い」


眉を上げた九重に、自分の気持ちを吐露する。


「気持ち悪かった。怖かった。触れられたり、抱きしめられたりするたび、ぞくぞくして苦しくて吐きそうだった」

「……お嬢様」

「九重はそんな人じゃないってことは分かってる。だけどね、頭の中で彼の顔がちらついて……」


何度か瞬きをした九重は、おずおずとそのしなやかな手をわたしに伸ばす。


「お嬢様がいいとおっしゃるまで、抱きしめたりしません。ですから……もし気持ちが落ち着いたその時は、この手をとっていただけませんか」

「……」

「無理にとは言いません。本当に嫌なら、払っていただいて結構です。けれど、これだけは誓えます。……私はあの者とは違う」


凪のように静かで、優しく、けれど圧倒的な強さを持って、その言葉が紡がれる。


瞳の中にある穏やかさと、相反してその奥に潜む激しい怒りの色。

そんな色が混じり合った瞳は、月明かりに照らされて、どこまでも澄んでいる。


場違いにも、綺麗だな、と思った。