この声で「ありがとう」とたくさんの「好き」を

ガタッガタッとハードルが倒れる音がうるさくて目を開けた。
時計を見ると授業が始まって20分ほどしか立っていなかった。
突然、運動場から「おおーー!!」という歓声が聞こえ恐る恐るカーテンをめくり再び外に目を向けた。
すると、太陽の光とその光を浴びた人影が私の目を奪った。
後ろ足で地面を蹴って軽やかに走り出す。一つ目のハードルまでの身近い距離を徐々に速さを増して進む。
そして、思いっきり前足を突き出し、軽やかに飛んでいった。
ただまっすぐ前を見て、ひたすら突き進もうとする姿に私は動けなくなった。
あんなに綺麗に飛び越えていく人がいるなんて。
私はなにかに取り憑かれたように、その姿を目で追った。
自分でも正直驚いていた。自分が何かを見てこんなにも興奮し、こんなにも見とれてしまうなんて。
戸惑いと興奮と色んなものがごちゃまぜになって今の気持ちがよくわからなかったが、一生懸命に彼の姿を追った。
すると、彼がこちらを振り向いた気がした。
さっと身をかがめカーテンをきゅっと閉めた。
全身が暑苦しいくらいに熱を持っていた。彼のあの軽やかな動きが脳裏から離れず、ずっと再生されている。
人にこんなに感動させられることなんてあるわけない。
夏の暑さのせいで頭がボーッとして無駄に美しく見えただけだ。
そう言い聞かせたが、あれは確かに感動と言わざる負えない感情であったことくらい、私でも理解していた。