放課後の誰もいない教室に、ただ一人。
幼馴染の伶香(れいか)を待っている間、窓から校庭の運動部の活動を見守る。
陸上部のエースとサッカー部のエース。
二人は私と同じ学年で、学校中で人気者。
目立たない私が、「あの二人と知り合いです」って言ったらどうなるか、分かったものじゃない。
そんなことを知れるのは、間違いなく私と、ずっと一緒にいる伶香と、あの二人だけだ。

「また見惚れてた?サッカー部のアイツに。」
伶香は歩く時足音一つ立てないから、戻ってきたことに気付かなかった。
「見惚れてる?そんなことないよ。」
「嘘つくの下手だよ、咲は。何年一緒にいると思ってるの?」
「かれこれ13年近く?」
「そうだよ。だから全部お見通しなの。まだ好きでしょ、ホントは?」
伶香には嘘をつけないし、つく必要もないから、黙って頷く。
「まあ、分かるよ。あの時のこともあるしね……あれは好きになっちゃうよね。
颯くんとまた、復縁できるといいね!」
「うん」
「まだ見てく?」
「買い物しないと…」
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」

昇降口を出て、校庭の横道を通る。
陸上部とサッカー部の部活スペースのちょうど真ん中を通らないと、校門には辿り着かない。
この時間が嬉しくもあり、気まずくもあって、不思議な感じなんだ。
「伶香と咲じゃん!もう帰り?」
陸上部の練習スペースから、紫音が駆け寄ってきた。
「そうだよ」
「頑張ってね。」
「サンキュー」
そんな短いやり取りをして、紫音は練習に戻る。
ふと後ろのサッカー部に目をやると、颯くんと目が合った。すぐに逸らされたけれど…。
あの日以来口も利いていない。面と向かって話す勇気もない。
----- 颯くんは、私のこと、今はどう思っているんだろう。また、話せるようになるといいな。