「良いわよ、もう。仕事自体は充実しているし、正式な婚約というわけではないから」

「そう言ってくれると助かる。―――――仕事も、頑張っているようだね」


 近況報告の文は書いているものの、あまり仕事のことには触れていないので、フリードにでも聞いているのだろうか。そんなことをクララは思った。


「はい。お屋敷で退屈を弄ぶよりも、ずっと楽しく毎日を過ごしています。城の女性任用ポストの少なさが不思議なぐらいだわ」


 クララはここぞとばかりに、城で働く中で感じたことを話す。


(きっと、貴族の中にもわたしのような女性は多いはず。女性の視点って案外重視されるし)


 普通の人は小さな改善点に気づいたところで、滅多なことでは上まで声が届かない。けれどクララは違う。宰相の娘という己の身分を活かすなら今だ。


「そうだね。私もそう思う。だが、伝統というものは中々に崩すのが難しい。それは分かるね?」

「えぇ。ですが、声を上げなければ、検討すら始まりませんもの」


 歴史の古いこの国で、女性の王が即位したのはほんの数回。その間にも、男性王族が生まれないことで何度も跡継ぎ問題が発生しているというのに、国は男性優位の姿勢を中々変えようとはしない。


「おまえの考えは気に留めておこう。だけどクララ――――もしも王太子妃になれれば、お前自身の手でその想いを政に反映できるようになる。私が叶えるより、その方がずっと良いと思わないかい?」


 ワグナーはそう言ってチラリと娘の顔を窺った。


「そう。……そういう考え方もあるのね」


 先程レイチェルと王太子妃について応酬を繰り広げたばかりだったので、何やらバツが悪い。クララは小さくため息を吐きながら、俯いた。