隣の席から聞こえる盛大なため息。パタパタと扇を開いたり閉じたりする音。


(そんなことしなくたって、あなたが退屈していることなど皆分かっているのに)


 それを隠そうともしない子どもっぽさに、今度はクララからため息が漏れる。


「あら、如何したの?宴の席に呼ばれなかったのがそんなに不満?」


 尋ねてきたのは第2王子、ヨハネスの内侍であるレイチェルだった。尊大に胸を逸らし、何やら勝ち誇ったような笑みを浮かべているのが腹立たしい。

 それはあなたの方でしょう?という言葉をグッと呑み込んで、クララは余所行きの笑顔を向けた。


「いえ、首尾良く宴が進んでいるか気がかりだったのです。申し訳ございません。このような場に不似合いな行動を取ってしまって」


 深々と礼をしながら、クララはレイチェルには見えぬよう舌を出した。頭の回転は早そうな令嬢だから、きっとクララの嫌味を敏感に感じ取ってくれるだろう。そう期待した。