「これ、もらっとけ」


 コーエンはそう言ってクララの耳元に顔を寄せる。


「なっ、なに!?」


 コーエンの吐息がクララに掛かる。もう何をされても揺らがないと決めたのに、こんなにも簡単に心が騒いでしまう。嬉しいと思ってしまう。それがクララは悔しくてたまらない。

 そんなことを考えている内に、クララの耳たぶにコーエンの指先が触れた。微かな温もりに次いで感じるのは、金属の冷たさだった。カチっと音が鳴るとともに、コーエンの指がそっと離れていく。


「休日なのに仕事に付き合わせたからな。そのお礼だよ」


 コーエンの手の中で、美しく大きなエメラルドの周りにダイヤがあしらわれたイヤリングが揺れている。先程コーエンが触れた方の耳にクララが指をやると、イヤリングの片割れがキラキラと輝きを放っていた。


(要らないって。わたしにはそんなの必要ないって。そう言いたいのに)


 気づけばコーエンはクララの反対側の耳に触れている。まるで壊れモノを扱うかのように、優しく丁寧に指を沿わせ、クララの心を繋ぎとめる。


「思った通り。よく似合ってる」


 そう言ってコーエンが浮かべた笑顔は、あまりも眩しくて、優しくて、それから残酷だ。
 クララが思わず俯くと、コーエンの指先がクララの顎を掬った。

 反射的にクララは、コーエンの瞳を覗き込む。美しく青い宝石のような瞳が、熱くクララを見つめていた。綺麗だと――――これが欲しいのだと思う刹那、クララは息を呑んだ。

 唇に柔らかく温かい何かが重ねられていた。