王都から帰城後、クララは一人、自室にこもっていた。

 コーエンと二人きりの帰り道、クララは彼とどんなことを話したのか全く覚えていない。なんなら、どうやって帰って来たのかだって覚えていなかった。


(なんだかなぁ……どうしてこんなに胸が苦しいんだろう)


 気を抜けば、すぐに身体の中心がモヤモヤと気持ち悪くなる。頭の中がお世辞にも綺麗とは呼べない言葉で埋め尽くされてしまう。


(馬鹿だよなぁ、わたし)


 相手のことをよく聞きもしないまま、知った気になっていた。

 コーエンに大事な存在がいることを考えもしなかった。知ろうとしなかったのは自分だというのに、勝手に傷つけられた気になっている。


(いや、勘違いさせるような行動を取ったあいつも悪いと思う)


 考えながら、モヤモヤ以外の怒りの感情が湧き上がってきて、クララは必死に自分を落ち着けた。

 本来ならば貴族の令嬢が、王族との婚約を嫌がるなど言語道断だ。けれどコーエンは、クララの想いを理解してくれた。道を指し示してくれた。それに甘えてきたのはクララ自身だ。


(だからコーエンは、殿下と――――ジェシカ様のために、わたしを繋ぎとめようとしてくれていたのにね)