「それにしても良いの?こんな素敵なブローチを戴いてしまって。あなたの婚約者に怒られるんじゃなくて?」


 その点目の前の令嬢、レイチェルは大変御しやすい。餌をぶら下げればすぐに喰いつくし、ヨハネスもそんな彼女のことを理解したうえで好きにさせている。おまけにヨハネスはレイチェルの他に側近を付けていないため、変な邪魔が入ることも無かった。


「もちろん。――――もしも俺が王太子になったら、妃の位はあなたのものですから」


 クララとレイチェルの圧倒的な違い。それは、レイチェルにとっては『王太子妃』の位が全てということだ。


「本当に大丈夫なの?スカイフォール家の令嬢はそれで納得する?」


 うっとりと微笑みながら、レイチェルは頬を赤く染める。
 レイチェルは王太子妃になれるならば、ヨハネスだろうがフリードだろうが、相手はどちらでも構わないのだ。


「えぇ。彼女は寧ろ、王太子妃の位を辞退したがっているぐらいですから」


 フリードはそう言って穏やかに目を細める。
 決して嘘は言っていない。
 けれど、もしも自分が王太子になったとして、クララを手放す気は微塵もなかった。