「おい、クララ。折角のデートなんだから、そんな難しい顔するなよ」


 コーエンはそう言って、クララの眉間をコツンと小突いた。


「…………え?」


 まるで心臓を射貫かれたかのように、クララの中心が熱く、甘く騒めく。割と強めに小突かれたはずなのに、眉間に痛みは感じない。その代わりに、コーエンの触れた場所がじくじくと熱く、クララの全身を浸食するかのような心地がするだけだ。


(冗談、よね?)


 そう尋ねてみたいけれど、クララの唇は思うように動いてくれない。

 コーエンの青い瞳が、いつもみたいに悪戯っぽく揺らめくんじゃないか。そう思っているのに、真剣な表情に見えてしまう。磔にされたかのようにコーエンから目が離せない。


「うーーーーん、デートかぁ。デートだったら邪魔は出来ないなぁ」


 ふと、誰かの声がクララを思考の深淵から呼び戻した。

 困ったような人懐っこい笑顔。見事な紅い髪の毛にスラリとした長身。
 クララとコーエンの待ち人、騎士団隊長シリウスがそこに立っていた。