「あぁ。王太子が決まるまであと半年――――だからな」


 コーエンが小さな声でポツリとそう漏らす。クララにとっては初めての情報だったが、まだまだ城に来て数日。知らないことの方が断然多い。


「そう……」


 半年という時間は長いようで短い。

 この半年の間に、クララはフリードや他の王子のことを、もっともっと知らなければならない。フリードを王太子にし、自由を手に入れなければならない。

 王妃には、王太子になれなかった王子たちのことは聞けなかった。クララは生まれてこの方、王兄達の噂を聞いたことがない。それがどうしてなのかは分からないが、あまり良い想像ができなかった。


(わたしには知らなければならないことが、まだまだ沢山あるんだわ)


 チラリと顔を上げれば、向かいの席のコーエンと視線がかち合う。

 ざわりと音を立ててほんの少しだけ、胸が騒ぐ。小気味よい温もりが、クララを笑顔にする。
 その理由を理解しても良い――――そんな日が訪れることを楽しみにしている自分がいるとクララが知るのは、まだ少し先のお話。