「こんなナヨナヨした男に負けて、恥ずかしいと思わないのか?そんなことでは国は守れん。領土を広げることもできない」

「殿下の仰る通りでございます」


 元より反論させる気など一切ないのだろう。ひたすらに暴力的な言葉でカールはシリウスを詰っていく。


(失礼な人。コーエンはすごく強かったのに)


 その事実を一切考慮しない、頭の固さ。一連の発言には、シリウスだけでなく、コーエンへの配慮も全くない。シリウスを責めるようでいて、コーエンのことを遠回しに非難している。

 本当は今すぐに頭を上げ、彼等の代わりに反論したかった。けれど、相手は王子だ。厳格で慈悲もない、話の通じない人間。今のクララの身分では、どうすることもできない。


「それからそこの女。顔を上げろ」


 唐突にそんな言葉が聴こえる。


(そこの女って……)


 この場にいる女性はクララだけのはずだ。腹立たしさを感じながらも、クララはゆっくりと顔を上げた。

 ピリリと張り詰めた空気。感情を感じないダークブルーの瞳がこちらを見下ろしている。