「やはり、このままではいかん!」


 大きな影がぬっと現れ、クララは慌てて起き上がる。


「フリードはおまえを甘やかしすぎだ。王妃教育のカリキュラムとして、体力トレーニングは必須だろうに!」

「殿下……そんな王妃教育、聞いたことがありません」


 項垂れつつため息を吐けば、仔猫が小さくミィと鳴く。仔猫はカール殿下の腕をすり抜けると、クララの膝へとやって来た。そのまま頬を舐められ、小さく息を吐く。


 第三王子であり、王太子となったフリード殿下――――コーエンと正式に婚約をしたクララは、内侍の仕事と並行し、王妃教育を受け始めた。礼儀作法や社交術、算術や歴史、帝王学など、学ぶことはたくさんある。

 とはいえ、クララは実家である公爵家で、ある程度の教育を受けてきたのだ。王妃教育など味付け程度。足りない知識、経験を補うための機会に過ぎない。

 そんな状況に一石を投じたのが、カールとイゾーレの二人だった。


『これからの時代、妃とて強くあるべきだ!』


 カールはそう言って、クララに剣を差し出す。『振ってみろ』と言われたものの、重たくて、まともに持ちあげることすらできない。

 呆れたカールは、クララを鍛えると言い始めた。

 走り込みもそう。最初はカールがクララを先導していた。だけど、カールのペースにはとてもじゃないけど追い付けない。このため、イゾーレが代わりにトレーナーを務めるようになったのだ。