けれどその時、コーエンの方がクララの手を繋いだ。
 温もりが、眼差しが、言葉よりも雄弁に想いを語る。
 嬉しそうに、愛おしげに、コーエンがクララの額に口づける。


「クララがいるから、俺は強くなれるんだよ」


 コーエンの腕の中は、温かくて心地よい。
 これから先の人生、きっと大変なこと、辛いこともたくさんあるだろう。妃としての重圧につぶれそうになることもあるかもしれない。


(だけどきっと、大丈夫)


 大好きな人の隣に立てること、彼を支えられることを、クララはとても嬉しく思う。コーエンの側にいるだけで、何でもできるような気がするのだ。


「コーエン」


 ゆっくりと、噛み締めるように、彼の名を呼ぶ。
 クララ以外にもう、この名を口にするものはいない。
 クララが見つけた、クララだけに許された、コーエンという一人の男性。


(ずっと、わたしだけだったら良いなぁ)


 なんと贅沢で、途方もない願い。だけど。

 
「クララ」


 コーエンもまるで、この世にたった一人しか存在しないかのようにクララを呼んでくれるから。
 どちらともなく口付けながら、二人は満面の笑みを浮かべたのだった。


【本編了。このあと番外編がございます!】