「それでは私たちはこれで。フリード殿下、クララ様、本日は本当に、おめでとうございます」


 イゾーレは穏やかに微笑むと、カールと共に踵を返した。
 ヨハネスも悠然と二人の後に続く。
 残ったのはコーエンとクララと、ジェシカの三人だけだった。
 

「殿下、あの……色々と、ありがとうございました」


 クララはそう言って深々と頭を下げた。

 ジェシカは要所要所で、クララやコーエンを助けてくれた。そっと背中を押してくれた。その存在の大きさに、どれ程救われてきたか。


(ううん。これから先も、きっとそう)


 彼女はきっと、さり気なくコーエン達を助け続けてくれるだろう。 
 コーエンが王太子の位に就く前に――――クララが彼の婚約者だと発表される前に、どうしてもジェシカに伝えたかったことだった。

 ジェシカはクララの言葉にキョトンと目を丸くしていたものの、声を上げて笑いながら、恭しくクララの手を握った。


「言っただろう?ボクがこの婚約を運命に変えて見せるって」


 コーエンとクララを交互に見ながら、ジェシカは穏やかに笑う。


「幸せにね」


 そう言って笑うジェシカは、とてもとても美しかった。

 刻一刻とお披露目の時刻が迫っている。
 コーエンとクララは今、二人きりだった。

 先程まで忘れかけていた緊張が、再びクララを襲う。胸がドキドキして堪らない。

 クララの隣で広間を見つめるコーエンは、既に王太子としての自覚と自信、誇りに満ち溢れているのだろう。キラキラと輝いて見える。
 眩しくて、あまりにも愛おしい。ついつい手を伸ばしたくなる美しさだった。