目の前にいるフリードは、間違いなくクララの知っているフリードその人だ。

 けれど彼は今、クララと同じように、女性ものの美しいドレスを身に纏っていた。優雅に裾を靡かせるその様は、あまりにも衝撃的で。クララの目が点になる。


「遅いぞ、ジェシカ」

「ホントホント。せっかく兄弟揃い踏み、ってタイミングだったのに」

(ジェシカ!?カール殿下さっき、ジェシカって言った!?)


 思わぬことにクララは目を見張る。

 クララの知る彼は、この国の第3王子フリード殿下。カールとヨハネスの弟であり、コーエンと血が繋がっている。
 そう聞かされていたし、今日までずっと、そうだと思ってきた。

 けれど、どうやら違和感を感じているのはクララただ一人らしい。行き交う騎士も、文官たちも、誰一人として驚いてはいない。フリードの格好も呼び名も、寧ろ、当たり前のこととして受け入れている様子である。


(どういうこと?)


 混乱に陥っているクララの手を、コーエンがそっと握った。その目は何処か気まずげに逸らされていて、クララは眉間に皺を寄せる。